第8回 色彩及び位置からなる商標の形状のみからなる標識該当性:ルブタン事件・欧州司法裁判所判決

第8回 色彩及び位置からなる商標の形状のみからなる標識該当性:ルブタン事件・欧州司法裁判所判決

我が国商標法では、平成26年改正により、色彩のみからなる商標の登録が可能となっていますが、現時点(2018年6月17日)まで単色の商標登録はさていません ※1)。しかし、このような色彩が、「商品等…が当然に備える特徴…のみからなる」場合には、その独占を事実上半永久的に許す結果となり不当であるため、そのような色彩は登録から排除されています(不登録事由:商標法4条1項18号及び商標法施行令1条。)。

この不登録事由と類似する規定として、EU各国の商標法を調和する商標ハーモ指令(2008/95/EU)における拒絶・無効理由である「商品に実質的な価値を与える形状」「のみからなる標識」(同指令3条(1)(e)(iii))があります。2018年6月12日、クリスチャンルブタンのソールの色彩及び位置の商標(下図参照)について、同規定の解釈が問題となった欧州司法裁判所の判決 ※2)が出されました。


同判決は、まず、特定の色彩が製品の特定の部分に適用されるという事実が、その標識が、商標ハーモ指令3条(1)(e)(iii)の意味での「形状」からなるかについての問題を生じうるとします(para.23)。

しかし、判決は、製品の形状や製品の一部の形状が色彩の輪郭を描く役割を果たしているのは事実であるが、標章の登録がその形状の保護を求めず、その製品の特定の部分への色彩の使用を保護することのみを求めた場合には、標識がその「形状」からなるということはできないとしました(para.24)。

さらに、標識の要部が特定の色彩である本件標識(ルブタンのソール)が、形状「のみ」からなるとすることはできないとしました(para.26)。

以上のように判断して、判決は、色彩及び位置からなる商標について、「形状」該当性を否定し、色彩を要部とする商標につき、形状「のみ」該当性を否定するとして、無効となることはないと判断しました。

ただし、この色彩は「形状」ではなく、「形状のみ」ではないとする欧州司法裁判所の判断から「特徴…のみ」からなるかを問う上記の我が国の規定の解釈への示唆を得るのは困難です。しかし、同判決には、逆に我が国においては、色彩及び位置からなる商標について形状であるか否かを問うことなく、その位置への色彩の使用が「商品等…が当然に備える特徴」であるか(多くの場合に色彩の選択肢があるか)を判断すれば足りるという、我が国規定の明確性を再確認させるという意味があるように思います。


(著)内田剛(東海大学 創造科学技術研究機構 助教)
(監修)角田政芳(東海大学 総合社会科学研究所 所長)



※1) 単色の位置商標(ただし模様的な要素を含む)については登録例があります(商標登録6034112号:カップヌードルの装飾模様)。
※2) Christian Louboutin, Christian Louboutin SAS v Van Haren Schoenen BV, C-163/16, ECLI:EU:C:2018:423.