第1回 ファッションローとは?

第1回 ファッションローとは?

ファッションローとは、ファッションデザイナー、ファッションプロダクト※1)その他ファッション産業に関わる知的財産法、契約法、会社法、商法、不動産法、労働法、広告法、国際取引法、関税法等を含む法領域の総称のことをいいます。「ファションロー」という名称の単一の法律があるわけではなく、たとえば「エンタテインメント法」、「スポーツ法」、「IT法」などと同じように、ある業界におけるビジネスに関連する法令を業界単位で捉えたときの法分野を呼びならわすための名称※2)です。

近年では、3Dプリンタなどの複製技術や、インターネット、SNS、IoT、AIといった新しい技術やサービスの発達により、ファッションプロダクトのデザイン、ブランドなどの模倣が容易かつスピーディーに行われるようになったという問題意識から、ファッションデザインなどの保護に関する知的財産法分野のことを「ファッションロー」ということもありますが、広義には、上記のような広い範囲の法領域を含みます。

ファッションプロダクトのデザインの段階では、知的財産権を駆使して自社のデザインを保護するとともに、他社デザインに対する権利侵害を回避しなければなりません。また、製造・流通の段階では、商品企画企業、生産企業、卸企業、小売企業、さらには海外ブランド企業や輸出入業者等のプレイヤー間で生じる様々な取引について、契約法、国際取引法、貿易規制等の知識が不可欠です。製造・流通に関わる従業員の安全や適正な労働条件の確保も重要です。消費者に対してファッションプロダクトを販売するに当たっては、個人情報その他データの保護に配慮しなければならず、近年、ファッション業界においてもますます重要性が高くなっているECビジネスを行い、さらにはビッグデータ、IoT、AIなどの新技術を活用するときには、とりわけ注意しなければなりません。

このように、ファッションローは、ファッション業界の特性、慣行等を踏まえながら、ファッション企業がファッションプロダクトを生み出し、消費者の手に届けるまでのあらゆる段階で生じる法律問題を扱います。ファッション企業は、ファッションローを習得し、これをうまく活用することにより、スムーズかつ安全で、より収益性の高いビジネスを営むことができるようになるのです。


(著)関真也(TMI総合法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
(監修)角田政芳(東海大学 総合社会科学研究所 所長)



※1) ファッションプロダクトとは、「ファッション、つまり『流行』、『はやり』に即したプロダクト=製品を指す。狭義には服飾製品を指すのが一般的であるが、広義には、被服に限らず鞄、靴、眼鏡(サングラス)、帽子、アクセサリー、時計等が該当する」とされています(小川徹「ファッションプロダクトの多面的な保護」日本大学知財ジャーナル10巻58頁(2017年)(株式会社商業界「ファッション販売 特大号―アイテム別商品知識大図鑑300/販売員宣言!/注目と元気の話題100」1頁(株式会社商業界、2014年)を引用))。

※2) 角田政芳=関真也『ファッションロー』(勁草書房,2017年)。