第2回 ファッションデザインの保護に関する法律の沿革

第2回 ファッションデザインの保護に関する法律の沿革

世界的にみて、ファッションデザインの保護に関する法律の歴史は、1711年に制定されたフランスの「リオン絹織物産業の共同従業者および製造者のデザインの盗用に関する執政官規則」に始まるといわれています※1) 。その後も、18世紀から19世紀にかけて、ドイツやイギリスにおいて、ファッションデザインの保護に関する法令を制定していました。

今日では、欧米において、ファッションデザインだけを保護する立法はとくにみられません。もっとも、ドイツやイギリスでは、それぞれ、応用美術と美術工芸の著作物を著作権の保護対象としています。また、ファッションデザインの保護が最も強い国の1つであるフランスでは、応用美術に加えて、「服装および装飾の季節産業の創作物」(流行の要請に応じて製品の形状をしばしば一新する産業、特に婦人服、毛皮、下着類、刺しゅう、婦人帽子、靴、手袋、革製品、最新流行の又は高級婦人服用の布地、装飾品製造者および靴製造者の製品ならびに室内装飾用布地の製造業は、「服装および装飾の季節産業」とみなされるとされています。)を著作物とし、保護の対象としています。さらに、いわゆる欧州共同体意匠規則は、登録意匠権だけでなく、非登録意匠権によるデザインを保護することにより、スピーディーなデザイン保護を実現しています。

米国では、ファッションデザインの保護に特化した立法への努力が続けられてきたものの、今のところ、そのような法律の制定には至っていません。また、既存の知的財産法(著作権法、意匠特許法、商標法等)による保護の可能性はあるものの、いずれも、ファッションデザインの保護に適したものとは必ずしもいえず、欧州に比して、ファッションデザインが保護されにくい状況でした※2) 。しかし、2017年3月22日、合衆国最高裁判所は、ファッションプロダクトを含む実用品の保護の可能性を拡げる内容の判決を出しました※3) 。今後の著作権法によるファッションデザインの保護に関する動向が注目されるところです。

さて、日本はどうでしょうか。日本でも、米国と同様に、ライフサイクルの短く、かつ、実用的な側面を有するファッションプロダクトのデザインは、著作権、意匠権、商標権等の知的財産権によって保護されにくいものでした。もっとも、1993年の不正競争防止法改正によって導入された商品形態模倣規制により、発売から3年間に限り、デザインのデッドコピーを禁止することができるようになりました。また、近年では、著作権法によるファッションデザインの保護の可能性を拡げることにつながるような知的財産高等裁判所判決も複数出されています。もっとも、ファッションデザインを含むいわゆる応用美術の保護に関する裁判例は不統一な状況にあり、今後さらなる議論を深めなければならない問題点です。


(著)関真也(TMI総合法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
(監修)角田政芳(東海大学 総合社会科学研究所 所長)



※1) 角田政芳=関真也『ファッションロー』1-2頁(勁草書房,2017年)(Joerg Oliver Helfrich, “Rechtsschutz der Mode” Nomos. 1993. S.26を参照引用)。

※2) 関真也「米国知的財産法によるファッション・デザインの保護の現状と課題(1)(2)」AIPPI 62巻1号6-34頁、同62巻2号25-57頁(2017年)で詳しく解説しています。

※3) Star Athletcia, L.L.C. v. Varsity Brands, Inc., 137 S. Ct. 1002 (2017). 関真也「Star Athletica事件合衆国最高裁判決:実用品のデザインに用いられる美術的特徴が保護適格性を有するか否か(分離可能性)を判断する基準~日本の著作権法における応用美術の保護への示唆~」AIPPI 62巻9号2-27頁(2017年)も参照。